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鎌倉に藍田さんの「アートではない」手描き黒板増殖中 マーケティング視点で発信

鎌倉駅西口すぐの不動産店「ココハウス」の大窓は内側から描く。1カ月ごとに描き変えることで通行人や客だけでなく、働くスタッフのモチベーションも上がるという

鎌倉駅西口すぐの不動産店「ココハウス」の大窓は内側から描く。1カ月ごとに描き変えることで通行人や客だけでなく、働くスタッフのモチベーションも上がるという

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 鎌倉市内で「黒板マーケティング研究所」(鎌倉市長谷)代表の藍田留美子さんが描く、独特のメッセージを発信する立て看板や黒板、ガラス窓、壁などが増え話題になっている。

ココハウスの大窓は「描く前に消すのに半日掛かってしまう」。2年前から毎月テーマを変えて描くことで勉強になり自信が付いたという

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 大手百貨店や高級インテリアショップ、シアトル系コーヒーチェーンなどでの豊富な販売経験を背景に2012(平成24)年、同研究所を設立した藍田さん。描き換えができる黒板というツールを使い、個人店からサロン、大手スーパーまでの集客や販売促進活動を担ってきた。

 始まりは、知り合いの経営コンサルタントに声を掛けられ描いた、埼玉のある美容室の立て看板。それまでも同店はホームページや広告などに投資してきており、黒板での集客には疑心暗鬼だったという。

 提供されるサービスの情報などをもとに描き始めたが、「店主の人柄が伝わるようなネタもどうですか」と提案。「鎌倉に行ってきました」と業務とは全く関係ない話題を書くと、看板の前で立ち止まる人や新規客が増え、店内では鎌倉の話で盛り上がった。

 黒板のポテンシャルに店主は驚き、気付いてもらえた藍田さんもうれしかったという。その後も「最初は『黒板なんかで』と言われるが、やってみると効果が出て喜ばれるパターン」が繰り返された。「もともと期待値が低いから」と笑う。

 販売促進部門を持つ中堅スーパーの総菜売り場では、従業員たちの冷たい視線を感じながら手を動かした。すぐに売り上げが伸びたことで歓迎されるようになり、結局30店を回って描き大きな自信になったと振り返る。

 藍田さんが描く黒板は、文字だけでなく絵や模様もカラフルにレイアウトするが「黒板アートとは全く別物」と言い切る。小学1年生のときに先生に字を褒められて以来、文字を書くことが好きになった。レタリング技能検定の国家資格も取得したほどだが、「絵やデザインに関しては全く勉強したことがないので、アーティストさんが見たら笑われるレベル」と言う。

 「実は上手下手ではなく、大切なのは伝える中身」だと藍田さん。依頼があると、まずフラットな立場の客として訪問した後、店主に徹底的にヒアリングする。「店の都合で伝えたいことよりも、お客さんが知りたいこと、求めていること、共感することを引き出し言葉にすることが重要」と話す。

 依頼者からは「話しているうちに商売のヒントをもらえた」「やることがまだまだあると気付かせてくれた」「自分を見つめ直す機会になった」などの声が寄せられた。「黒板を描くために来てもらったのに、経営コンサルタントに指導された感じ」と言われたことも。

 黒板の効果を、より多くの人に実感してもらうために昨年から地元でワークショップも始めた。「むしろ字や絵が下手だから描けないという人が対象」で、何を描くべきかを考えることに重心を置く。「黒板を完成させるのがゴールだと思っていたら全く違った」「描いた黒板をイベントでのテーブルに置いただけで、全く売れなかった物が売れた」などと好評だ。

 「経営やマーケティングのセミナーにも出たことがある」という参加者も多いというが、「いざ自分に置き換えると何をしたらいいか分からなかったが、黒板というツールがあるので、分かりやすくすぐに行動に移せる」と口をそろえる。

 10月16日、藍田さんはワークショップ参加者と一緒に、鎌倉駅周辺で手掛けた黒板やウインドーなどを見て歩いた。参加者らは、藍田さんが描いた黒板などがあちらこちらにあることにあらためて驚いたという。途中、店主から効果なども直接聞いた。「みんなで見たり聞いたりすることで、アイデアを出し合い、楽しく学び合うことができた」と手応えを口にする。

 昨年までは都内での仕事が中心だったが、今年に入り地元からの依頼数が上回るようになったという。

 「町を歩いていると、ここの黒板が描きたいと思う店がたくさんあって困る」と藍田さん。「今後は自分が描いた店を横につなげて、情報交換や共有の場をつくっていければ」と意欲を見せる。

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