
鎌倉の飲食店や出版社、書店、ギャラリーなど50店舗以上が連携して開く詩のイベント「KAMAKURA POETRY FESTIVAL 詩を(通称=詩をフェス)」が10月1日に始まる。「カフェ エチカ」(鎌倉市雪ノ下)に集まる、詩が好きなメンバーが実行委員となり企画した。
オープンから20年、同カフェではさまざまなイベントや詩の朗読会を開いていたが、コロナ禍で全て休止になった。店主の千田哲也さんは「人に会えなくなって以降、みんなが生の言葉を求めている気がした。なかなか広がらないと諦めていた大好きな現代詩が、今ならみんなに届くのではないかと感じ、コロナ禍明けから詩の朗読会などを意識的に増やした」と話す。
イベントが再開すると、後に実行委員会を形成することになるメンバーが自然に集まってきた。編集者の今井章博さんが詩人や関係者を紹介し、ラジオパーソナリティーの平井隆麿さんは番組で詩の朗読のコーナーを始める。常連でライターの志賀桂子さんはコロナ禍で休止となった「ブックカーニバルinカマクラ」の実行委員で、出版社「港の人」の上野勇治さんは「ブックフェスタ」を主催していた。千田さんは「ちょうど1年前、詩の祭りをやりたいという僕の妄想は、企画する人、運営する人とつながって、いつの間にか『街フェス』のようなプロジェクトになっていった」と振り返る。
同カフェのカウンターでたまたま話を聞いた編集者の増本幸恵さんが、広報を兼ねた冊子の制作を申し出て、今年2月に2000部を刷って配布すると、あちこちから声がかかるようになった。最初は20店舗程度の参加があればと考えていたが、今や50店舗を超えた。志賀さんは「詩に関わっていた人たちだけでなく、一般の人からの問い合わせやイベントをやりたいという店舗からの問い合わせが、今も増え続けている。詩の持つ力、鎌倉という街の底力を肌で感じている」と話す。
10月4日~30日は「喫茶ミンカ」(山ノ内)で、鎌倉を中心とした8つの古書店が集まり、詩関係の本に限定した「詩の古書市in北鎌倉」を開く。「1カ月近く、詩の本ばかりが集まる古書市は珍しいはず」と千田さん。上野さんも「詩を発見する喜びを多くの人と分かちあうことができればうれしい」と話す。
同店では、5日にセルビア在住の詩人の山崎佳代子さんによる詩の朗読会、26日に「中国現代詩を知る~中国翻訳詩集『女人』の世界」も開く。
飲食店「侘助(わびすけ)」(山ノ内)では10月25日、市内在住の詩人の城戸朱理さん、作家の藤沢周さん、文芸評論家の富岡幸一郎さんによる「城戸朱理『火山系』『海洋性』刊行記念トーク&リーディング」を開く。
谷川俊太郎写真展「lost&found」では、谷川さんが詩人と呼ばれる以前の18~21歳の頃に、二眼レフカメラで撮影した写真を展示する(会場は申し込み者のみに連絡)。
「北鎌倉台峯での一日~いのちのことばをきく~」は、自然豊な台峯緑地を歩きながら、地元の人に話を聞き、歴史や命を体で感じるツアー。詩人と美術家の対談も予定する。
そのほか、ライブやトークショー、演劇、句会、展示会、映画の上映会なども開く。「(10月)1日~14日には、市立の5つの図書館でも詩に関する本のコーナーを設けてくれることになった。詩集などは普段は動きのないジャンルらしく、図書館スタッフからの期待も感じた」と志賀さんは声を弾ませる。
千田さんは「作品としてではなくても、詩はいろいろな形で生活に溶けている。市内の店などを巡って詩に出合うという、鎌倉の新しい楽しみ方を体験してほしい。マップを手に街に出よう」と来場を呼びかける。
開催時間はイベントや店舗の営業時間により異なるる。31日まで。