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鎌倉で生まれ育った若手水彩印象画家が初画集「平成 鎌倉の記憶」

表紙を描いた鎌倉駅西口で、画集を手にする矢野さん。和服がトレードマーク

表紙を描いた鎌倉駅西口で、画集を手にする矢野さん。和服がトレードマーク

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 歴史探訪社(鎌倉市大町)から9月15日、水彩画家・矢野元晴さんが独自の画法で鎌倉の風景を描いた作品集「水彩印象画~平成 鎌倉の記憶~」が発売される。

巻頭に掲載した地図には描いた作品の位置情報を記した。ガイドブックのように手にして歩くのも楽しい

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 矢野さんは1988(昭和63)年に鎌倉で生まれ、日大芸術学部デザイン学科建築コース卒業後、建築事務所に勤務。画家になりたいという夢をかなえるため退職し、水彩画家・笠井一男さんに師事。夜勤のアルバイトをしながら本格的に画業に取り組んだ。

 2016(平成)年7月、「2時間半で作品が完成する水彩画ワークショップ」を鎌倉で開くと、これまでにない絵画体験だとの評判が口コミで広がった。参加者が増え、翌年5月には「鎌倉水彩画塾」を開講する。

 画集出版の依頼を受けたのは、ちょうどその頃。同社が出版した書籍の表紙を担当したのが縁だった。矢野さんは「ますます観光地化が進み、子どもの頃から見てきた鎌倉が失われつつある。自分の水彩画で文化性や精神性までを表現し残しておきたいと考えていたので、いいタイミングだった」と振り返る。

 当初5人だった画塾の生徒数は2年間で約180人に。小学生から90代までに毎日指導する傍ら、精力的に市内を巡りスケッチを重ねた。「地元で生まれ育ったのに知らない場所がたくさんあった。知り尽くしていると思っていた自宅近くにも新たな発見があり驚いた」と言う。

 寺社仏閣、海、江ノ電など誰もが知る風景だけでなく、商店街ではない場所に長く生き続ける商店、地元の人しか通らない路地なども描いた。多くの外国人観光客で一日中にぎわう鎌倉高校前駅脇の踏切は、かつての静けさが伝わるよう気持ちを込めた。

 「もっといい風景に出合える気がして、細い道にもどんどん足を踏み入れた。その一本一本の道に歴史を感じるのも鎌倉らしいところ」と話す。100枚以上の作品が完成し72点を選んだ。全作品に添えたコメントは、矢野さんと編集者が会話しながら文章にしていったもの。

 巻頭に地図を掲載し、描いた場所を全て表示した。画集ではあるが、観光ガイドブックのようにも使える。「画集を手に実際に足を運んで、本当の鎌倉を感じるきっかけになれば」と話す。

 制作を進めるうちに元号が変わった。作品は全て矢野さんが見て感じてきた平成時代の鎌倉の風景。矢野さんが生まれた翌年から始まり今年春に幕を閉じた「平成」をタイトルに加えた。

 「平成はゲームなど仮想体験が主流になったが、絵を描くことは本物を見ながら描くという現実の体験。特に印象水彩画は素早く描ける独特の手法」と矢野さん。「風景を描けば町への愛着が湧いてくる。一人でも多くの人が鎌倉を、湘南を、日本をあらためて見つめ直し描いて好きになってほしい」と話す。

 発刊を記念し小町通りの「リバスク」(鎌倉市雪ノ下1)で9月14日~30日、「平成 鎌倉の記憶」原画展を開く。入場無料。29日に開く「画集発刊記念トークライブ」は参加費1,000円。

 矢野さんは「2年前には絵で食べていくことも、画集を出すことも想像していなかった。画家を目指すも果たせなかった父の夢をかなえることができ、少しは親孝行ができたかと思う」と話し、「関わってくださった皆さんに感謝しながら、水彩画の力で鎌倉から日本中を元気にしていきたい」と眼を輝かせる。

 同書は定価2,000円(税別)。B5版88ページ、ソフトカバー。市内の主要書店で販売。全国の書店で注文できる。

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