鎌倉で和食店の軒先を借りて始めたシフォンケーキ専門店「フォンフォンシフォン カマクラ」(鎌倉市御成町4)が9月24日、4周年を迎えた。
初めて2階に上がってきた客の多くは小さな店に驚きの声を上げるという
「横浜の保育士仲間と毎週のように大好きな鎌倉に通い詰めていたことがきっかけ」と話すのは店主の今泉愛子さん。「日本酒が好きで常連になった和食店に手作りのシフォンケーキとパンを差し入れたところ、店主の大濱幸恵さんに『店をやったら』と勧められその気になった」と笑う。
子育てや介護が一段落しそうな50歳になったら何かを始めたいと考えていた今泉さん。大濱さんに背中を押され、物件が見つかるまで同店の軒先を借りて始めることに。
「ところがテークアウトの食品製造には密閉した空間が必要」だったため、オープンキッチンの同店でのケーキ作りはかなわなかった。あらためて工房にふさわしい物件を探すことになったが、なかなか見つからない。
やはり常連として通っていた鎌倉駅西口のコーヒースタンド「ザ グッド グッディーズ」(御成町)でケーキの話をしていると、店主の内野陽平さんが「本気でやろうと思っているのだったら、ちょうど空く物件がある」と情報を提供してくれた。
知り合いが使っていた長谷にある工房が空くという。すぐに契約して2015(平成27)年9月24日、「おおはま」の前にテントを張り「フォンフォンシフォン カマクラ」を開いた。
長谷の工房で作ったケーキを自転車に積み、江ノ電4駅分の距離を毎日通った。走っていると「頑張って」「気をつけて」と知り合いが声を掛けてくれ励みになったという。
今泉さんがケーキやパン作りを始めたのは、結婚して3人の子育てをしていたころ。「食べ盛りを抱えながら忙しく買い物に行くのも大変だったので、パンを作ってみよう」と始めたところ、「すっかりはまってパン教室に通うようになった」と懐かしそうに振り返る。その後、パートで働いたベーカリーで自作のケーキが評価され販売することに。「いつか自分のケーキ店を出したい」と思うようになった。
屋根こそないものの「店を出したことで、自分が作ったケーキを自分で売ることがこんなにうれしいものなのか」と実感できたという。常連客も増え、店頭ではさまざまな客と話をするようになった。
「またお客さんと一緒に泣いてたね」と大濱さんに声を掛けられたことがある。今泉さんは保育士として10年以上の経験を持ち、子育てママの支援なども行っていたこともあり「たまたま子育て中の母親の話を聞いて感極まった」と言う。
「店は物を売るだけではなく、人との出会いやつながりが生まれる場所だと肌で感じるように」なり、ますます実店舗を構えたいという気持ちが高まっていった。
2017(平成29)年のある日、軒先を借りている「おおはま」の2階が空き物件になった。大濱さんと一緒に内見し手を取り合って喜んだ。思ったより狭かったため工房のみで、販売はこれまで通り軒先でと考えたが、話を聞いた内野さんが「どんなに小さくても店舗スペースを確保すべき。暗い階段を上がった先に店があったらお客さんは驚くはず」とアドバイスをくれた。
内野さんが設計してくれることになり、紹介された大工と3人で形にしてく作業は楽しかったという。「私が出す要望に2人は常に120%で返してくれた」と感謝する。こだわったのは木のぬくもり。店が育っていく証でもある経年変化が出るクルミの木を使った。ショーケースもオーダーメードで、今泉さんの身長に合わせた。
面積27平方メートルのうち、店舗スペースはわずか約4平方メートルとたたみ2畳分ほど。木製の扉の前に立った客は「内野さんの言った通り『ワー』『かわいい』と声を上げる。狭いけれど、毎日ここに立つのが何よりの幸せ」と顔をほころばせる。
並べるシフォンケーキは、「プレーン」(350円)、「ベルギーチョコ」「姫様のたまご」(以上400円)のほか「マロン」など季節限定品も。「どれもしっかりした味付けなので、生クリームなどを添えないで楽しめる」と言う。食パンをはじめパン類も用意する。
今泉さんがシフォンケーキを選んだのは「材料がシンプルなのに難しいから」。子どものおやつに焼いたのが始まりで、「友人たちにも食べてもらったら褒められた。もっともっとおいしく作って喜んでもらおうと今でも焼き続けているが、ゴールがない」と目を輝かせる。
「鎌倉の人は温かく、つないでくれ、応援してくれる。それに応えようとあっという間の4年だった」と今泉さん。「製造から販売まで全ての工程に関わっていたいので大きく広げるつもりは全くない。今後も自分のできる範囲で細く長く続けていきたい」と話す。
営業時間は11時~18時。月曜・火曜定休、イベント出店のため日曜不定休。
かつて自分が立っていた「おおはま」の軒先に立てた案内看板には、知人が「元保育士が焼く優しいシフォンケーキ」と書いてくれた。客には子育て中の母親の姿も目立つようになったという。