鎌倉の古美術ギャラリー「Quadrivium Ostium(クアドリヴィウム オスティウム) 」(鎌倉市浄明寺)で5月11日、企画展「こちら未来展~それでも世界は続いていく~江波戸陽子×古美術」が始まる。
江波戸陽子さんは、紙に色鉛筆やカーボン紙、ダーマトグラフ、油彩などを用いたドローイングで、身近な物を描く現代アーティスト。同展のために制作した作品24点それぞれに、同ギャラリーが所有する古美術品24点を組み合わせて展示する。
世界各地から集めた古美術品を展示販売する同ギャラリーは2021年、店主の黒田幸代さんがに鎌倉浄明寺の高台に開いた。その立地から「天空に浮かぶギャラリー」と呼んだ客もいるといい、テレビ番組で取り上げられたほか、昨年は神奈川建築コンクール「優秀賞」に入賞するなど建物自体も注目されている。
今回の企画展は、もともとアートが好きで油絵や水彩画、リトグラフなどを集めていた黒田さんが、昨年出かけたあるアートフェアで江波戸さんの作品と出合ったのがきっかけ。その場で作品を購入した黒田さんが後日、同ギャラリーで開いた茶会に江波戸さんを招待。黒田さんは「茶会ではほとんど言葉を交わすことができなかったが、じっくりと古美術の茶わんに見入る姿を覚えている」と振り返る。
その後、江波戸さんが開いた個展「昔は今」に出かけた黒田さんは、掲げられていたパネルを読んで、江波戸さんが茶わんに見入っていたときの思いを知ることになる。「そこには、目の前に出現した古美術への衝撃的な出合い、古美術と対比して、限りある命が容易に失われている現在、世界で起きている出来事への考察がつづられていた」と黒田さん。その洞察力から、黒田さんが江波戸さんの作品に感じていた力を確信、「古美術との親和性は高いと感じ、すぐにコラボ展を提案した」と続ける。
江波戸さんはコラボ展の誘いに快諾。「『こちら未来』というタイトルまで提案してくれた」という。そこで黒田さんは「江波戸さんの『こちらの未来』と古美術の『あちらの過去』を一緒に展示して対話させようと考えた」と話す。
例えば、江波戸さんの赤いベルトが印象的な「赤い腕時計」には明末時代の古美術「呉須赤絵天下一字皿」を組み合わせ、「こちらの未来『時間の基準』×あちらの過去『天下一、価値顛倒』」というクロスワードを、江波戸さんがフィルムカメラを描いた「俺のGR」には桃山時代の古美術「貝尽し薄高蒔絵平棗」を組み合わせ、「こちらの未来『転写機械』×あちらの過去『博物画蒔絵』」というクロスワードを添えて展示する。
江波戸さんは「自分が生まれる前も死んでしまった後も世界は続いていく、その世界の片隅に物はあり続けるということを感じてもらえたら」とコメントを寄せる。
黒田さんは「オープン以来、ギャラリー名である過去から未来へ引き継ぐ『十字路の入り口』を表現するものとは何かを考えてきた。現代を生きる作家の作品も、過去の遺物である古美術も同じ時間軸上に存在している。今回のコラボは、その後先(あとさき)を行き来する初めての試みであり、わくわくしている」と話し、「今後も古いものと未来を展望するアートを提案する活動を進めていきたい」と意気込む。
営業時間は11時~17時。17日は休廊。5月23日まで。