鎌倉腰越海岸の砂浜で5カ月前から、健康と地域のために毎朝、自主的にラジオ体操を始めた女性がいる。
発案者の中嶋寿子さん(右)と支援者の平野理恵さん。「腰越ラブが強過ぎて、よく引かれる」と口をそろえる
平日の朝7時20分、9月に入って海水浴客もいなくなった海岸の砂に、「ラジオ体操」と書かれた高さ30センチほどの小さなのぼりを立てたのは中島寿子さん。江ノ電腰越駅の一つ隣の鎌倉高校前駅近くにある自宅から歩いてやって来た。
荷物を置くシートを広げると、リュックから小型スピーカーを取り出してスマホと接続する。犬を散歩させていた年配の女性、ランニングの途中だという男性、近所に住む主婦が集まりラジオ体操が始まった。
「気持ちがいい」「視界をさえぎるものがないからね」「校庭や公園でやるのとは開放感がぜんぜん違う」と、参加者は体を動かしながら大きな声で言葉を交わしている。
中嶋さんがラジオ体操を始めたのは、「知人の母親が一度体調を崩して以来、外出しなくなってしまったという話を聞いて、何か力になりたいと思ったのがきっかけ」と言う。誰もが知っているラジオ体操なら、気軽に出掛たくなるのではと考えた。「健康維持・増進につながる。みんなでやれば交流も生まれるはず」と、ゴールデンウイーク明けから一人で始めた。
会場に砂浜を選んだのは「いつも空いていて勝手にできるから」で、「誰も来なくてもいい。まずはやってみよう、続けてみよう」と平日は毎日通った。
SNSで発信すると、友人たちが顔を出してくれるようになった。たまたま散歩で通り掛った人が加わってくれたことも。知り合いの女性県議会議員が顔を出してくれ、男性市議会議員は夜にやっていたジョギングを朝型にしてときどき参加してくれるようになった。「それでも、6人が最多」と笑う。
スピーカーの不調で音が出なかった日は、みんなでメロディーを口ずさんだ。「一度も止まることなく最後までできた。子どもの頃から擦り込まれているラジオ体操ってすごい。日本の文化であり、年代を超えて共有できるツールであることをあらためて実感した」と振り返る。
「それでもなかなか参加者が増えなかったので、地域の人に聞いてみた」と中嶋さん。分かったのは海岸と町を分けている国道134号線の存在だった。早朝から夜まで大型車をはじめ交通量が多く、すぐそばなのに海へ足が向かないという。「地元の人にとってすっかり高くなってしまったこのハードルを、いかに低くしていくかが今後の課題」と話す。
「まだ5カ月なので、今はとにかく続けてみたいと思う。夢は大きく100人でやること。砂浜をいっぱいにしてみたい」と眼を輝かせる。「その中に、きっかけになった知人の母親の姿があったらうれしい」とも。