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「弁造さん」の未完成絵画展 鎌倉の画家のアトリエだった古書店で

古書が並ぶのは元アトリエ。「実は私の父も画家。不思議な縁を感じる」と伊藤さん

古書が並ぶのは元アトリエ。「実は私の父も画家。不思議な縁を感じる」と伊藤さん

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 鎌倉の「古書 アトリエ くんぷう堂」(鎌倉市佐助1)で10月18日、奥山淳志「庭とエスキース」出版記念「弁造さんのエスキース展~今日も完成しない絵を描いて~」が始まる。

写文集「庭とエスキース」はA4変形版、328ページ。40枚の写真も収められている

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 同書は、北海道新十津川町の丸太小屋に暮らす井上弁造さんを14年間にわたり撮影した写真家の奥山淳志さんが、弁造さんの死後から6年後の昨年執筆し、今年4月にみずず書房(東京都文京区)から出版された。

 大自然の中、独自の美意識で庭を造り自給自足の生活を送る傍ら、丸太小屋の中央に置いたイーゼルと向き合い筆を動かした弁造さん。女性や子どもをモチーフにベニヤ板や画用紙、包装紙の裏などに描き続けたが、エスキース(下絵)ばかりで、92歳で亡くなるまで完成した作品は1枚もなかったという。

 弁造さんは88歳のとき「もし一度個展をひらくことが出来たら幸いです」(原文ママ)と書き残していた。近くで見つめていた奥山さんが同書の出版を機に、弁造さんの夢の実現ともいえる同展を企画し6月から全国を巡回している。

 神奈川での会場に選ばれたのが同店。「元は画家さんのアトリエだったこの場所で開くというのも何かの縁」と話すのは店主の伊藤薫風(さつき)さん。「やはり90代で亡くなり、描きかけも含めたくさんの作品が残されていた」と続ける。

 古書店を開きたいと考えていた伊藤さんが物件と出合ったのは昨年4月ごろ。家主だった画家が亡くなってから5~6年が経過しており「廃屋のようだったが、遺品整理を含め片付けることを条件に契約できた」と振り返る。

 腐っていた畳をはがしフローリングに、崩れ掛かけていた土壁はしっくいにと自分たちで改装。昨年の台風で庭木が倒れブロック塀が壊れた際には、元通りに直す予算がなかったため、木製の看板を立て代用した。

 今年2月、2階のアトリエスペースを店舗として開店。文学、アート、デザイン、歴史、サブカルチャー、絵本、雑誌のほか、作家のアート作品やアンティーク雑貨なども並べた。

 2年前まで編集やライターとして働いていた伊藤さん。開店の案内を関係者に送ったところ、奥山さんから連絡があった。「すごく優しそうに人を撮る奥山さんに魅了され、かつて撮影とインタビュー記事の連載を依頼したことがあった」という。後日、奥山さんと出版社スタッフが来店し、同展の開催が決まった。

 これまでレンタルスペースとして使っていた1階の2つの部屋に、作品を展示するためのワイヤレールを設置。同展に向けてギャラリーとしての準備も進んでいる。「実はアトリエや物置から元家主のエスキースもたくさん出てきた。そんな場所に弁造さんの作品が並ぶのは楽しみ」と目を輝かせる。

 同書について伊藤さんは「なかなかクローズアップされない人に奥山さんが光を当てた。地味な存在だけに逆にぐっとくるすてきな本。絵を描いた人だが本には人の生き方が描かれていて、いろいろ考えさせられる」と話す。「弁造さんは亡くなっているが作品は残っているし、本としても残った。合わせて見ると、より味わい深くなるはず」とも。

 10月20日15時から奥山さんを招き、同書「出版記念トーク&スライドショー」を開く。奥山さんは18日~22日在廊。

 営業時間は11時~19時。月曜定休、金曜不定休。展示期間中は28日のみ休業。今月31日まで。

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