金融業界の最前線などでキャリアを重ねてきた男性が、学生時代からの夢をかなえ、10月25日、「佐助カフェ 鎌倉」(鎌倉市佐助2)を開いた。
銭洗弁天に向かって歩いていくと左手に現れる印象的な切り妻屋根。周辺にはなかったタイプのオープンな空間
鎌倉駅西口から西へ徒歩15分。銭洗弁天へ続く細い道沿いに、白い壁と木の柱が特徴的な切り妻屋根の建物が現れる。店主の島崎亮平さんと妻のひとみさん、スタッフの及川奈美さんが笑顔で迎えてくれる。
大きな窓から光と風が入る明るい店内。厨房(ちゅうぼう)に4つ並んだドリッパーからコーヒーの香りが漂う。佐助稲荷をイメージしたキツネのマークを描いたカップや皿など食器は自宅で陶芸教室を開くひとみさんが作ったもの。亮平さんが持ち込み書棚に置いた本を手に取る客の姿もある。店舗面積は約82平方メートル、席数は15席。今後はテラス席も用意するという。
「カフェを開くのは高校生の頃からの夢だった」と島崎さん。「部活が休みの日は渋谷に出て古書店で文庫本を買い込み、『らんぶる』という喫茶店で包みを開くのが何より楽しみだった」懐かしそうに振り返る。
島崎さんは慶応大法学部を出てから英ケンブリッジ大で経済学を学んだ。卒業後はそのまま英国に留まり、投資銀行をメインに大手メーカーの日本法人などにも勤務。国連職員として緊急食料援助に携わり、世界中の発展途上国などを駆け巡ったことも。再び金融業界に戻り、57歳で退職するまでの6年間は日本で投資顧問会社の社長を務めた。
長く都心に住んでいたが、オンもオフも「淀んだ空気」の中で過ごすことに疑問を感じ、郊外へ移住したいと考えていた。15年前、鎌倉の大仏ハイキングコースを歩いていたとき、高台に「売り地」の看板を見つける。敷地に立つと海からの風が心地よかった。上下水道も通っていなかったが、すぐに移住を決めた。
陶芸が趣味だったひとみさんのために「教室を開けるように窯を設置してスタジオを作ることを条件に、移住に同意してもらった」と笑う。転居後は光を浴びて目覚め、四季の移ろいを肌で感じながら毎日佐助の町を抜け鎌倉駅まで通った。
カフェを開く夢の実現に向けて働きながらコーヒースクールで4年学び、数年前からは市内で物件探しも始めた。知り合いの不動産会社から、明日公開する予定だという物件の知らせを受けて驚いた。出勤時にいつも見ていた佐助にある空き地だった。間一髪で土地を手に入れ、いよいよ具体的に動き出すことに。
金融業界からの転身に「驚いたり、あきれたり、心配したりする友人が大半だった」というが、「やれることは何でもやってみるというスタンスはこれまでと全く変わらない」と胸を張る。「夢の実現だけでなく、自分にとってはいつものチャレンジ」とも。
「好きでカフェ巡りも続けてきたが、ブックカフェやアートカフェは成功しないケースも多い。『カフェ』『地域』『アートと本』を、鎌倉という場所で融合させたい」と意欲を見せる。
「湘南には若い作家や芸術家が多い。ここを彼らの創造エネルギーの発信の場として機能させたい」と、さまざまなジャンルに対応するため、棚をフレキシブルに設置できるよう壁に工夫を施した。年末年始にかけて、すでにイベントや作品展示も企画している。
一日中、観光客が行き来する道沿いだが、「想像以上に地元の人の来店が多い。20代後半から年配の方まで幅広く、散歩の途中で一息つく方も」と言う。
メニューは、コーヒーはハンドドリップで入れる「佐助ブレンド」(500円)、「佐助ブレンド オレ」(600円)。日本茶は、「抹茶ショット」(400円)、「アイス抹茶」「煎茶 狭山おくみどり」(以上500円)、「抹茶オレ」(600円)など。フードは、「粗挽きビーフキーマカレー」「ポークチャパタサンド」「和風チキンサンド」(以上1,200円)。スイーツは、「佐助焼き(つぶあん・季節あん)」「長門牧場ソフトクリーム」(400円)など。
「規模を大きくするつもりは全くない。10年後に『あぁ、ここにこの店があって良かったね』と言われる存在になれたら」と話す島崎さん。「独自のスタイルを築き世の中の一つのモデルになるのが、小さな店の大きな野望。自分の町で『こんな店をやりたい』と思う人が現れたらうれしい。学生時代に通った店で僕が思い描いたように」と目を輝かせる。
営業時間は11時~日没。火曜・水曜定休。