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「自粛もトレーニング」 鎌倉の秘密基地で宇宙時代幕開け準備進める民間宇宙飛行士

秘密基地内の管制センター。映画の世界に放り込まれたような印象だが、足元は畳敷き

秘密基地内の管制センター。映画の世界に放り込まれたような印象だが、足元は畳敷き

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 宇宙関連ビジネスを展開する「ASTRAX(アストラックス)」(鎌倉市小町)がコロナ禍を乗り越え、宇宙時代の到来を見据えた新たなスタイルでの事業や管制室整備などの準備を進めている。

オンライン講演などはいつもこの席から。右下の布団は「ドラえもんの押し入れのイメージ。奥にディスプレイを入れて地球を映し出す予定」

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、これまで行っていた講演や講座、イベント、無重力体験ツアーなどが全て中止となった同社。社長の山崎大地さんは「3月からは補助金や給付金、融資などで何とかやりくりしている状態」と話す。

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 鎌倉で生まれ育った山崎さんは、国際宇宙ステーション(ISS)の運用管制官として開発などに従事。2005(平成17)年の独立後は執筆や講演を中心に、宇宙産業の認知や発展のために活動していた。「今は講演や講座のオンライン化、『秘密基地』の整備も進めている」と続ける。

 「詳しい話は秘密基地で」と案内されたのは、観光客も行き交う通りに面した古い建物。明治時代に建てられた米蔵で、2015(平成27)年から同社が拠点にしている。

 重厚な扉を開けると古い木組みの空間が現れ、急な階段を3階まで上がった先の和室がオフィス。12畳ほどのスペースに「もらってきた畳を敷いたり、DIYで手すりを作ったりして、少しずつ自分たちで改造した」という。仮眠スペースや押入れには酒瓶や冷蔵庫が置かれているなど遊び心にもあふれ、「時々居酒屋になることも」と笑う。

 部屋の奥の中央に1枚だけ引き戸があり、指紋認証で開錠する。木製の扉が開くと和の空間から一転、暗闇に無数のティススプレーが浮かび上がる近未来的な光景が目に飛び込んできた。

 「ようこそ管制室へ」と山崎さん。「ヒューストンの米国航空宇宙局(NASA)の管制センターの中でも宇宙とつながる最前線で働いていた頃のフロントルームのイメージを再現した。もちろん遊びではなく、僕らがこれから提供する宇宙船内でのサービスをコントロールするためのセンター」と胸を張る。

 面積は約27平方メートル。200インチの大型スクリーン2枚を中心に、30台近いディスプレーなどが並び、デスクは全てガラス製。「ディスプレーはホテルの改装でまとまって出たものをネットオークションで、スマホやタブレットはSNSで寄付を呼び掛け20台以上集まった。見た目だけは理想の30%程度まできた」とほほ笑む。

 「ただ、機能はまだまだ。早ければ来年の3月からお客さまの宇宙飛行も始まるため急いでいる」が、資金が集まらない。「海外ではもう現実的になっている宇宙旅行が、日本では全く理解されていない」のが課題だという。

 「日本では宇宙開発は国家事業レベル。選ばれたエリートだけが宇宙飛行士になれるイメージだが、民間主導になっている海外では、すでに誰もが宇宙旅行を体験できる時代という認識。海外では10万人が申し込み、約600人が料金を払い込んでいる宇宙旅行もある」という。

 宇宙船発着場(飛行場)がアメリカ本土だけで10カ所以上あり、ハワイの2カ所をはじめ世界各地で建設が進んでおり、山崎さんは宇宙時代がすぐそこまで来ている事実を、これまでも講演などで伝えてきた。

 「しかも乗客は宇宙を飛ぶだけでなく、宇宙で何をするかを考えている。100人いれば100通りのやりたいことがあり、そのニーズに応えていくのが僕らのビジネス」と話す。

 これまで100人以上を集客した同社の航空機による無重力体験ツアーでは、結婚式を挙げたカップルもいた。「これからは無重力に耐えるウエディングドレスや勝手に飛んでいかない結婚指輪も必要。立ち会う牧師さんや神主さん、カメラマンなどの無重力空間での訓練も必要になってくる。機材などの技術開発から人材育成まで、ビシネスは無限大だ」と説く。

 「とはいえ、まだまだ理解が進まないため、国連宇宙空間平和利用委員会科学技術会議をはじめとする国際会議などにも出席したり、論文を書いたり」と同社の信頼度を高める努力も惜しまない。

 一方で「夢ばかりを語っていると思われてしまうので、まずは自分も宇宙へ」と、現在3社のフライトに申し込んでいる。2012(平成24)年、英国で行われた航空ショーでヴァージングループ会長リチャード・ブランソンさんに直接会い、宇宙船「ユニティ」による宇宙飛行契約を締結。2018(平成30)年の国際宇宙開発会議の席では、アマゾン社のCEOで宇宙船を運行するブルーオリジン社のCEOでもあるジェフ・ベゾスさんとも会い、「ASTRAXでブルーオリジン社の宇宙船をチャーターする」と宣言した。

 「実際に宇宙船に乗れば、そこは閉鎖空間。テレワーク以外選択肢がなく、今の自粛生活にも似ている」と笑う山崎さん。「つい気持ちが沈んだり、不安になったりしがちだが、来るべき宇宙時代に備えトレーニングを積んでいると思えば、少しは前向きになれるはず」と続ける。

 「重力に縛られて地球は46億年間、宇宙に対して鎖国していたが、来年いよいよ開国することになる。その奇跡的瞬間に立ち合える僕らは幸せ。それを考えれば、この苦しい期間も乗り越えられそう」と目を輝かせる。

 「古都を思い描いて訪れる人が多い鎌倉。実は宇宙開発に携わる企業の拠点もあり、場所は教えらないが、この秘密基地もある。これからは未来の鎌倉、宇宙の鎌倉にも期待して」と管制室から呼び掛ける山崎さん。密閉された未来の空間にいるような気がしていたが、外から今を盛りのセミの声が聞こえていた。

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