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鎌倉の「浜役者」加藤茂雄さん1周忌 93歳で初主演の遺作映画を期間限定公開

長谷坂ノ下海岸での撮影時のワンシーン(2018年)。俳優業の傍ら、漁師としてもここが仕事場だった

長谷坂ノ下海岸での撮影時のワンシーン(2018年)。俳優業の傍ら、漁師としてもここが仕事場だった

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 役者歴71年で昨年亡くなった鎌倉の加藤茂雄さんが93歳で初主演した映画「浜の記憶」が6月15日、1周忌に合わせてユーチューブで期間限定・無料で公開された。

2019年7月27日の新宿ケイズシネマでの舞台挨拶。左から娘役の渡辺梓さん、加藤さん、相手役の宮崎勇希さん、大嶋監督

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 加藤さんは1925(大正14)年、江戸時代から続く鎌倉・長谷の網元の分家で生まれた。20歳で陸軍に入隊するとすぐに終戦を迎え、翌年の1946(昭和21)年に「鎌倉アカデミア」(同年から4年半だけ存在した映画や演劇など芸術系の高等教育を行った私立学校)の演劇科第1期生として入学、役者として歩き始める。

 卒業後に東宝と契約し、大部屋俳優として黒澤明監督の「生きる」「七人の侍」、本多猪四郎監督の「ゴジラ」シリーズなどにも出演。その後もテレビや舞台などで活躍してきたが、仕事がないときには漁師として鎌倉の海に出ており、自らを「浜役者」と名乗っていた。

 2018(平成30)年6月、同作品で監督を務めた大嶋拓さんが加藤さんの「俳優生活70周年記念作品」を企画し出演を依頼した。生まれて初めての主役のオファーに、加藤さんは「驚いたが、鎌倉が舞台で漁師役だったので」と快諾。2カ月間の撮影を「まるでシェイクスピアの『真夏の夜の夢』のようだった」と振り返った。

 お披露目は2019年6月。かつて「鎌倉アカデミア」があった光明寺(鎌倉市材木座)での上映会で、7月・8月の新宿での上映時のトークイベントに登壇した後、加藤さんは一時体調を崩したが、11月の横浜での上映にも元気な姿で舞台挨拶に立っていた。昨年3月に再び体調を崩し入院、4月には退院したものの、6月に自宅で亡くなった。

 息を引き取った日は、2日後に95歳の誕生日を控えた6月14日。大嶋さんは「余裕で100歳まで生きる。誰もがそう思うほど丈夫だった加藤さんが亡くなるなんて信じられなかった」と振り返る。「今思えば、93歳での初主演映画ということで話題になり、取材などが増えたことが負担になったのではないか。出演を依頼していなければ今日も元気に海岸を散歩していたのではないか」と思うと複雑な心境だという。ただ「ゆかりの地でもある光明寺の晴れ舞台でのうれしそうな顔も忘れられない」とも。

 1周忌を機に「加藤さんの遺徳をしのび期間限定で、より多くの人に勇姿を見てほしい」と大嶋さんは同作品をユーチューブで無料配信しようと決めた。「長谷の喫茶店で主演映画を撮りたいと誘ったのが6月、光明寺での初上映も6月、誕生日も命日も6月。配信スタートは、命日の翌日で誕生日の前日に当たる15日にした」と話す。

 今回の配信では映画本編に加え、2019年7月27日の新宿ケイズシネマでの舞台挨拶の模様も公開。加藤さんの生き生きした姿を見ることができる。

 大嶋さんは「私にとっても夢のような夏の体験だった。相模湾の海風を浴び、赤銅色に焼けた加藤さんの笑顔は、落ち込むことが多い私を常に励ましてくれた。もう直接お目にかかれないのは残念だが、この映画を見れば、加藤さんのこぼれるような笑顔と再会できる。こんな素晴らしい俳優さんがいたということを、配信を通して多くの人に知ってもらえればうれしい」と話す。

 公開は6月30日まで。視聴方法は「浜の記憶」公式ホームページの特設ページで確認できる。

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