若手アーティストらの絵画の作品を1万円からオークションする「まちの気楽なオークション」が9月11日、鎌倉のギャラリーカフェ「ジャック&豆の木」(鎌倉市由比ガ浜2)で開かれる。
同オークションの目的は、若手アーティストの発掘や育成、アートの普及。「ロンドンやニューヨークでは、同オークションと同様に高額の作品を競売しない1万円程度からスタートするオークションが大手オークション会社の主催で頻繁に開かれている」と話すのは、同オークションを主催する「AGホールディングス」(東京都千代田区)社長の柴山哲治さん。「歴史的には世界に現存するオークションも、もともとはこうした気楽な場だった」とも。
今回のオークションは9日から3日間にわたり、同カフェの壁面に若手アーティスト8人の作品を1人当たり2・3点展示する。うち1点がオークションへの出品作。営業時間中であれば誰でも自由に観覧できる。当日14時に始まるオークションへの参加は、事前予約制。先着24人まで受け付ける。現地で参加できない場合は、10日19時までインターネットで事前入札もできる。参加費は無料だが、落札した場合は手数料として価格の25%を支払う。
柴山さんは「カジュアルなカフェが会場だが、オークションの雰囲気は味わえるはず。作品購入やオークションはハードルが高いと思われている方も、見学するつもりで」と来場を呼び掛ける。
柴山さんのアートとの出会いは、米国ロックフェラー家の投資会社に入社した1990(平成2)年。「ビジネスの傍ら、財団を通してアーティスト支援や一般の人にアートに親しんでもらうためのさまざまなプロジェクトが展開されており感銘を受けた」と柴山さんは振り返る。「オフィスの壁にも無名のアーティストの作品が掛けられていて、常にアートが身近な存在だった」とも。
1994(平成6)年、柴山さんは世界最大級のオークション会社「サザビーズ」の日本法人社長に転身したが、「オークションはアートビジネスの基幹であるものの、日本ではマスコミで報道される割には一般への浸透は極めて未成熟だと実感した」と話す。「海外のように1万円程度からスタートする気楽な場を作らないと、日本はアートビジネス後進国のままになる」と考えた柴山さんは、2005(平成17)年の独立後、誰もが気軽に参加できる「まちの気楽なオークション」を立ち上げた。
一方、コロナ禍を受け都内での開催は難しくなった。柴山さんは「オンラインとリアルのハイブリッドでの開催もしてみたが、人々が集まりコミュニティーを形成することがオークションの価値でもあり、やはりリアルに開きたいと思った。できればアートや文化、歴史のあるエリアで」と考えていたところ、たまたま知人の紹介で訪れた「ジャックと豆の木」を「天井も高く広々とした空間のため、安心してオークション開けると感じた」という。「知り合った人と人がどんどんつながって、あっという間に関連企画も生まれることになった」とも。
同カフェで開いた第1回は3月13日。サザビーズ在籍時代の柴山さんはオークショニアとしてスーツ姿でハンマーを手にしていたが、この日はカジュアルな服装で終始笑顔だった。「場所柄なのか、まさに『気楽に』参加する人ばかりで、和気あいあいとした雰囲気がうれしかった。初参加、初めて購入という方も多く、今後が楽しみ」と期待をふくらませた。
オークションは4月と5月、7月にも開き、かけられた作品は、毎回1万円から十数万円で落札されたという。「現在は全国の若手アーティストの出品が中心だが、地元からの出品も呼び掛けている」と柴山さん。「まだ無名のアーティストの作品を購入することは、彼らのこれからの成長の軌跡を一緒に楽しんでいくことにもつながる」とも。
柴山さんが同オークションを通じて目指すのは「『無名と多量』の実践とアートマーケットの民主化」だという。かつて在籍したロックフェラー家のアーティスト支援に関する社是は「無名アーティストの作品を多量に購入する」だった。「これを一般の人が気楽に実践できるようなアートマーケットにしていくことが使命」と話す柴山さん。「英国では気楽なオークションがロンドンだけでなく多くの都市で開かれている。日本中でも各地でアーティストの新作やリサイクルのオークションが開催されるようになったらうれしい。鎌倉をそのモデルケースにできれば」と意気込む。
当日は、関連企画として、カヤック(鎌倉市御成町)主催「まちの大学」での講義「小さな美術館を自宅につくる」(10時45分~12時、定員24人、参加費5,500円)、アートの買い方をレクチャーする「アートランチ」(12時30分~13時30分、1,100円、定員10人)も開く。いずれも事前申し込み制。