読書や休憩ができるコワーキングスペース「すきま鎌倉店」(鎌倉市由比ガ浜)が5月10日、鎌倉にオープンする。運営は民間団体のアップサイクル大学(神奈川県茅ヶ崎市)。
同施設は由比ヶ浜通りに面した築90年の木造家屋の2階にあり、1階に入居している婦人洋品店脇の狭い階段が入り口。店舗面積は約38平方メートルで、席数は17席。畳敷きの小上がりも用意する。
廃棄されるものを新たな価値のあるものに再生させるアップサイクルという考え方をメインに、さまざまな課題をあらゆる角度から学ぶアップサイクル大学。2022年1月に開校し、現在70人の学生がオンラインで受講しており、フィールドワークや部活動も盛んだという。
「今回のプロジェクトは、空間のアップサイクル」と話すのは、同施設店長でアップサイクル大学事務局長でもある田中藍奈さん。「大学としてたまたま出合った物件だったが、学んでいることの実践の場にしようと呼びかけると、20~50代の学生20人が手を挙げてくれた」と続ける。
田中さんが初めて現地を訪れたのは今年1月。「30年間使われていなかったというので、恐る恐る階段を上がった。ぼろぼろだったが、古い建物ならではの格好良さが見て取れ、新たな価値を吹き込むにはとてもいい物件だと感じた」と振り返る。現地の写真などを提示しながら、ここで何ができるかを学生とオンラインで話し合った。
市場調査や情報収集を行うと、「鎌倉には観光客が休憩する場所が足りていない。一方で地元の人はコワーキングスペースを利用することが多いことが分かった」と田中さん。その後、ミーティングを重ねて出てきたのが「仕事も休憩もできる図書室」という案だった。「地元の人にも観光客のニーズにも応える空間で、つまり市内外在住の学生たちが、鎌倉にこんな場所があったら利用したいと思えるスタイルでもあった」とほほ笑む。
事業計画策定科、オペレーション学科、内装デザイン学科、SNS学科、クラウドファンディング学科を立ち上げ、グループに分かれて具体的な活動が始まった。店名は「地元の人や観光客の隙間時間に寄り添う、心も安らぐ場所に」(田中さん)という思いを込め、「隙間」と「好き間」をかけた。
図書室として並べる書籍の一部は、書店で売れ残り出版社に返却され裁断・廃棄されるはずだったものを安く購入する。棚に並べる本は閲覧だけでなく、購入もできる。同大学講師の本棚を再現したり、現在行っているクラウドファンディングのリターンの一つでもある「あの人が選ぶ10冊」を月替わりで設置したりする。
本格的な工事は4月に始まり、片付けや掃除、壁をはがす作業、ペンキやしっくいを塗る作業なども学生らが行った。新たに持ち込む木材も、できるだけ廃材を使った。田中さんは「使われなくなっていた古い空き家を、自分たちのアイデアと作業で全く新しい空間に変えていく作業の一つ一つがアップサイクルを体現している実感があり、わくわくしながら自分たちも成長できた」と振り返る。
田中さんは「『鎌倉店』としたのは、ここで培ったノウハウをベースに全国の学生たちがそれぞれの場所で実践していってほしいから。加速している空き家問題の解決にもアップサイクルで貢献できるはず」と話し、「利用はもちろん、まずはアップサイクルの現場を見るつもりで来店いただければ」と呼びかける。
営業時間は9時~17時。火曜定休。料金は、1時間=770円、3時間=1,650円(延長は1時間550円)、1日=3,300円。フリードリンク制(一部有料)。飲食物持ち込み可。日曜・月曜は貸し切り利用も受け付ける予定。