鎌倉の出版社「港の人」から11月30日、鎌倉市内の近代建築物50件を紹介した単行本「鎌倉近代建築の歴史散歩」が出版された。
「港の人」の井上さんは編集を担当。「当社のある由比ガ浜通りにも実は魅力的な近代建築がたくさんあったことに驚いた」
市内に残る近代建築物の歴史的価値や見どころを研究者の立場から客観的、中立的に紹介している同書。商業的なガイドブックとは一線を画しているが、一般の読者にも分かりやすくコンパクトに解説しているため鎌倉散策にも役立つ。
著者の吉田鋼市さんは西洋建築史・近代建築史が専門の工学博士で横浜国立大学名誉教授。特に神奈川県内の歴史的建造物に造詣が深く著書も多い。1982(昭和57)年から3年間、鎌倉市洋風建築物の保存のための要項に基づく重要建築物実測調査を行い、まとめられた報告書は現在も市の景観保護の指針となっている。
2年前に御成小学校講堂や鎌倉旧図書館などの「鎌倉 御成遺産」保存活動推進のイベントで吉田さんが講演、主催したスタッフが同社を紹介したことがきっかけで書籍化することに。
「近代建築物を紹介する本は多いが、鎌倉に絞った例はこれまでになかった」と話すのは編集を手掛けた同社の井上有紀さん。「吉田さんが観光スポットを紹介するテレビ番組を見ていて発見し駆け付けたという石窯ガーデンテラスなど、新たに調査した建物も加わった」という。
同書では鎌倉文学館、旧・華頂宮邸、古我邸の「洋館ビッグスリー」をはじめ、「公共建築」「洋風住宅・医院」「和風住宅」「和洋共存住宅」「商店・オフィス」「ホテル・旅館」「教会・寺社建築」「戦後建築」とジャンル分けして掲載した。
大変だったのは「編集中に取り壊されてしまったり、国の重要文化財に指定されたりと短期間でも状況がどんどん変わっていったところ」だと振り返る。今では内部の撮影ができなくなった建物もあるという。
歴史があり自然が豊かだった鎌倉は明治時代から別荘地としても発展した。寺社の施工で腕を磨き、やがて住宅などを手掛けた鎌倉大工の存在などが独特の建築文化を育んだともいわれている。同書は、現在でも当時の建築物が市内に点在していることを伝え、価値に気づき維持保存していくことの大切さを訴える。
井上さんは「単なる建築の本としてだけではなく、鎌倉の歴史や文化をひも解く手掛かりにもなるはず。地元の人には自分の街の再発見を、観光の方にはおいしいものを探すように街並みを見るきっかけになれば」と話し、「巻末にエリアマップも付いているので、本を手に美しい建築物を巡る散歩を」と呼び掛ける。
定価1,600円(税別)。四六版、本文200ページ。鎌倉市内ほか全国の書店で購入できる。