元書店を改装し2015年に開店、地域で親しまれてきた「ブックスペース栄和堂」(鎌倉市常盤)が10月25日、建物の建て替えのため閉店する。
「7月初旬に貸し主から建て替えを告げられ、しばらく放心状態だった」と話すのは店長の和田淳也さん。「3年近くの経験やデータを基に今後の計画を練っていた矢先だったのでショックは大きかった」と続ける。その後、店を続ける道を模索したが不調に終わり閉店が決まったという。
同店の前身は書店の「栄和堂」。1966(昭和41)年頃に文房具店として創業し、7年後から本を扱い始める。2014年に店主である和田さんの叔父が亡くなるまでの半世紀近く地域の人に親しまれてきた。後継者がいなかったため書店としての営業を諦め、和田さんらが翌年11月にブックカフェのスタイルで「ブックスペース栄和堂」を開いた。
本を扱い始めた際に壁一面に設置したサクラ材の書棚に並ぶ本は現在1000冊を超えている。当初は200冊程度だったが、来店客が持ち寄るようになり次第に空きスペースが埋まっていったという。
近所にある音響機器メーカーのスタッフが来店した際に「ライブができそうな空間なので、やるなら機器を提供する」と声を掛けられた数日後、別の常連客から音楽ライブができないかと相談を持ち掛けられた。2016年6月に初ライブを開くと、来場者だけでなくミュージシャンらの評判も良くコンスタントに開くようになった。「有名なミュージシャンにも使ってもらい恐縮した」と笑う。
書棚を使いギャラリーとしての活用が始まったのも人とのつながりから。コーヒー豆を仕入れている店からイラストレーターを紹介されたのがきっかけ。展示会のほかトークセッションやワークショップ、サッカークラブのタウンミーティングなども開いた。「いろいろな使い方をしてほしくてカフェではなく『スペース』と名付けたが、思った以上に活用してもらっていた」と振り返る。
来店客は子どもから年配者まで幅広く、半数がリピーターで、書店だった頃からの客もいた。近くに住む浜崎武洋さんは「子どもの頃から通っていた店。業態は変わっても懐かしい雰囲気の中で静かに過ごすことができた。閉店は残念でならない」と話す。
和田さんは「お客さまに恵まれ感謝しかない。本が置いてあるからか幼い子も騒ぐこともなく、3年間トラブルやクレームが1件もなかった」と胸を張る。
現在ある蔵書は、年内は保管しておくという。寄贈のため返却しないのが前提だが「店が継続することが前提で寄付くださった方には返却したい」と申し出を受け付けている。大船のコワーキングスペースが本棚を、鎌倉駅前の私設図書室が椅子を引き継ぎたいとの申し出があるという。
一緒に店に立っていた父親でマスターの和田正則さんは「新築後もここで再開してほしいとの声があるが、ずっと本屋だった空気感の中だからこそ意味があった。残念だが再開は考えていない」と言い切る。淳也さんは「街は変化していくもの。ここでまた新たな文化が生まれていくはず。閉店に向けては特にイベントも、特別メニューも用意しない。その日もいつもと変わらない閉店時間を迎えるつもり」と話している。