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鎌倉の72歳現役人力車夫・青木登さん 「お客さまがいなくても」走り続ける理由

二の鳥居前でポーズをとる青木さん。マスクと足袋(たび)の白、はんてんと空の青のコントラストが印象的

二の鳥居前でポーズをとる青木さん。マスクと足袋(たび)の白、はんてんと空の青のコントラストが印象的

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 新型コロナウイルス感染拡大の影響で鎌倉も観光客が激減し乗客を失った人力車夫の青木登さんは、「収束後の日々を楽しみに」前を向き、トレーニングを続けながら、今日も空の人力車を引き続けている。

人通りが少なくなった小町通りを行く青木さん。「特に息を吸うとき苦しいマスクは高地トレーニングのよう。でも外すわけにはいかない」

 35歳で脱サラし、1984(昭和)年に鎌倉で創業した青木さんは、観光人力車のパイオニアであり、72歳になった現在も現役。全長220センチ、幅125センチ、空車時でも80キロの人力車を引き、今日も鎌倉の街を駆け抜けている。

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 「3月に入り少し客足が落ちていたが、お彼岸の3連休は予約がいっぱいでフル稼働。その後はキャンセルが相次ぎ、鎌倉観光のトップシーズンを迎えているものの、この先もスケジュール帳は真っ白」と話す。「それでも、とにかく毎日走り続けている」のには理由が2つあるという。

 一つは、体力維持。「55歳位までは衰え知らずだったが、60代から筋力が落ちてきたことを実感。70歳に入ってからはあらがうことをやめて現状を受け入れている」と言い、「強化しようと筋トレをやり過ぎれば故障につながる。だからといってやらなくても下がる一方。現状維持というものがいかに難しいかに直面し、今はそれを追求している」と続ける。

 体力づくりのために18歳から続けている毎朝90分のトレーニングに加え、ストレッチにも時間を掛けるようになった。「でも、大事なのは実践。アスリートが練習で使う筋肉と試合で使う筋肉が違うように、人力車を引いていないとすぐに体力は落ちてしまう」と分析する。

 客が来ないため、知り合いに声を掛け無料で乗車してもらっていた。ここにきて外出を自粛する傾向が強くなり乗り手はいなくなったが、その分工夫しながら懸命に体力と勘を鈍らせない努力を続けている。

 もう一つは、情報収集と発信。「自分が動き回ることで、立地の異なる場所の店主さんなどから話を聞いたり提供したりすることが、37年お世話になっている鎌倉への恩返しであり、自分の使命」で、「店や寺社が閉まっていても、その様子を見て伝えるためにも動いている」と言う。

 4月18日・19日は鎌倉や江ノ島の道路で、他県ナンバーの自動車を中心に激しい渋滞が起きた。「普段は観光客をおもてなしする側の鎌倉から発信するのは複雑な思いだった」が、人力車の前で腕を交差させた写真に「ゴールデンウイークは来ないでください」とメッセージを添えてフェイスブックで発信。翌週は来訪者が減って「たくさんの方がシェアしてくださり、ほんの少しだけかもしれないが役に立ったのでは」と胸をなで下ろした。

 「もちろん収入がないことは苦しいが、今はとにかくみんなで自粛することが第一。そして一日も早い収束を願い祈るだけ」と話し、「これだけ自粛しているからこそ、収束した後にやって来る日々が楽しみでならない」と前を見据える。「そのとき、いきなり始動して体を壊さないために」トレーニングを続け、体のメンテナンスは怠らない。

 実は以前にも、青木さんには窮地があった。大手人力車チェーンがアルバイトを含め大挙して鎌倉にやって来た2001(平成13)年のこと。強引ともいえる客引きや迷惑駐車、接触事故などで人力車の評判が落ち、鎌倉の品格を体現し「客引きをしない」ことを信条に営業してきた青木さんも巻き込まれ大打撃を受けた。

 先が見えなくなっていたところに、突然鎌倉に現れた旧知の故・永六輔さんから「青木さんは今のまま、自分らしく続けていけばいい」と励まされ、自分にはこれまで積み重ねてきたものがあることに気付いたという。「気持ちがぶれることなく、いつも通り踏ん張って」いるうちに危機を乗り越えていた。

 「これまでの人生を振り返れば、どんなことをしていても、どんなときでも無駄な時間などなかった。お客さまのいない今も、決して無駄にはならないはず」と現状を見つめる。

 2018(平成30)年発刊の書籍「鎌倉には青木さんがいる~老舗人力車、昭和から平成を駆け抜ける~」(1ミリ社)の中で「100歳まで生きて、90歳まで人力車を引く」と語っている青木さん。「初めての長いブランクになりそうなので、101歳まで生きて、91歳まで人力車を引くことにしようかな」と人懐っこい笑顔を見せながらかじ棒に手を掛けると、乗客のいない人力車を力強く引いて走り去って行った。

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