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鎌倉移住体験の全てをリアルに ベストセラー「料理が苦痛だ」著者が新刊

新刊を手にする本多さん。移住してすぐに長男が入学した御成小学校の校門前で

新刊を手にする本多さん。移住してすぐに長男が入学した御成小学校の校門前で

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 鎌倉の出版社「1ミリ」から10月13日、ベストセラー「料理が苦痛だ」の著者が自らの移住体験をつづった「子どものために鎌倉移住したら暮らしと仕事がこうなった。」が発売された。

編集・出版を担った古谷さんが「鎌倉らしい素朴な風合いに仕上がった」と胸を張る表紙

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 「子育ての環境を考え鎌倉に引っ越すことになり、ひょんなことからカフェを始め、ひょんなことから料理教室を始め、ひょんなことから本を出すことになった」と笑顔で話し出したのは、同書の著者・本多理恵子さん。「今回の本では、引っ越しから現在までをリアルに書いてみた」と続ける。

 本多さんは、多くの女性らの共感を呼びベストセラーになった「料理が苦痛だ」(自由国民社)を2018(平成30)年11月に出版。翌年8月に「『料理が苦痛』な人の料理教室」(KADOKAWA)、12月には「おもてなしが疲れる~いつもの料理で人を招く~」(平凡社)を相次いで出版し、いずれも話題になった。4冊目となる今回は「実は1冊目を出した頃から、『1ミリ』さんに相談しながらずっと温めてきた企画だった」と言う。

 同社の古谷聡さんは、本多さんがカフェと料理教室を開いていた「カフェ リエッタ」に初めて足を踏み入れた時の印象をこう振り返る。「鎌倉に移住して一人でカフェを開業するくらいだから、意識が高そうな方だと勝手に思い込み緊張して訪ねると、とても居心地のいい空間だった。お話ししてみて、気取らず飾らない人柄がお店ににじみ出ているんだと納得した」と話す。

 その後、本多さんと古谷さんは定期的に会って同書の方向性を定めていく。「せっかく書くのだからビジネス書のようにメソッドを提供したいと考えてしまい、なかなか筆が進まなくなってしまった」と言う本多さんに、古谷さんが「経験したことを、そのまま書いたらいいのでは」と提案。「手に取った人がそれぞれの立場で追体験したり、仮想体験したりすれば、気付きがあるはず」と言われ肩の力が抜け、「それからは楽しく、書きたいように書くことができた」と話す。

 本多さんは短大卒業後、11年間都内の会社勤務を経て結婚し出産。長男の小学校進学を控えるタイミングで、夫から子育てのために郊外への移住を提案される。「これまで築いた生活もあったので、小中学の6年間だけ環境のいい場所に仮住まいして、また戻ればいい」くらいの気持ちで承諾し、2006(平成18)年に鎌倉に引っ越した。

 ほとんど知り合いもいない土地での生活は驚きの連続だったが、子どもを通して、洋菓子店でのパート仲間を通して、ゆっくりなじんでいった。「自分の友だちがこういう風に増えていくんだという感覚をあらためて体験できた」と言う。

 少し落ち着きが出て鎌倉に根を下ろし始めたと感じてくると、これからやりたいことを考えるようになった。都内在住時に洋菓子店のオープンを手伝った頃に抱いていた「自分で店をやりたい」という思いがよみがえり、実行に移す。2007(平成19)年3月に同店をオープン。集客が伸び悩んでいたことから試しに始めた「見るだけ」の料理教室が評判となり、連日多くの客で賑(にぎ)わうようになった。

 2016(平成18)年には、料理教室参加者は延べ1万人を超えた。同年の入院、一時休業を機に、書籍の執筆を思い付き出版講座に通った。企画を送った出版社の中で唯一関心を持ってくれた1社から出版した「料理が苦痛だ」がベストセラーに。

 その後に出版した書籍もテーマは料理で、11月に出版を控えているのも料理レシピ本。今回が初めての仕事や暮らしの体験記となる。「もともと料理が好きでも得意でもなく、開業のロマンを抱いて引っ越して来たわけでもない。今回は、これまでの紆余(うよ)曲折、挫折、思いなど、とにかくありのままを全て書いたつもり」と言い切る。

 移住から14年後の現在の鎌倉について本多さんは、「話そうと思っていた人に、朝スーパーの野菜売り場でばったり会ったり、カフェで一息ついていたらポンと肩をたたかれ『ちょっといい?』と相談されたりして、さまざまなことが、ほぼ生活導線で完結する。大きな意味で会社のようでもあり、同僚がたくさんいる感じ」と話し、「デジタルの時代だけど、アナログな助けが、手の届く距離にいつもあるのがありがたい」とも。

 暮らしの中で増えた「同僚」と共に、経営者としての「同僚」を求めて2015(平成27)年に友人と立ち上げた地元の女性起業家コミュニティー「かまフル」についても最終章でつづった。「かまフル」には、現在も都内や横浜から移住した人からの開業や鎌倉で起業したいという相談も多く、コロナ禍で増加傾向にあるという。

 「夢や憧れだけではなく、リスクを取る覚悟は必要。でもまずは鎌倉に来てみて。暮らしてみなければ分からないから」とアドバイスする本多さん。「私自身、頭で考えるより、とりあえずやってみる、動きながら考えるというスタンスで、流されてみたら今の自分になった。もともと子どもがきっかけだったが、今では誰よりも鎌倉を楽しんでいる」とほほ笑んだ。

 同店はコロナ禍より前にカフェとしての営業は終了し、現在は料理サロンのみ継続している。10月24日に、HATSU鎌倉(鎌倉市大町1)とオンラインで、同書出版記念トークイベントを開く。

 同書は四六判202ページ。価格は1,300円(税別)。鎌倉市内をはじめ全国の書店で購入できる。

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