鎌倉のNPO法人日本エコロジーアップサイクル協会(鎌倉市由比ガ浜)がワークショップ参加者を募り、紙袋からマスク入れを手作りし飲食店や宿泊施設に設置して、利用者に配布するプロジェクトが動き出している。
発案者でプロジェクトを運営しているのは、木村俊平さん。店舗などで受け取る紙製のショッピングバッグを、折り財布や小銭入れ、カードケース、御朱印帳入れ、ペンケース、スマホケースなどに作り変える活動を、2018(平成30)年から続ける同協会の理事長を務めている。
新型コロナウイルス感染拡大でマスクを着用するようになった頃、木村さんは「飲食店で、外したマスクの置き場に困った」という。そこで、かつて作ったことのあるポケットティッシュ入れを応用し、マスクを広げた状態で収納できるマスク入れを作った。「たまたま大好きなコーヒーチェーンの紙袋を解体して作ると、ぴったりのサイズで出来上がった」とほほ笑む。
早速マスク入れ作りのワークショップを開こうとしたが、自粛要請期間に入ってしまったためオンラインで開くことに。細かい作業が伴う財布やスマホケース作りに比べ工程が少ないため、オンラインでも参加者は30分ほどで完成することができた。特別な道具を必要とせず、はさみ、カッター、両面テープさえあれば始められるのも特徴。「5回ほど開催し、初めての人でも、2つ目からは15分もあればでできることも検証できた」と言う。
自粛期間が解除になると、オープンな会場を借りてリアルでもワークショップを開いた。「できたものは自分や家族で使いたいという感想を聞いたが、どこか物足りなさを感じていた」と振り返る。
ある日、ジェラート店「SANTi」(御成町)の紙カップやポストカードからスプーン入れやスマホカバーなどを作り、店主の松本純さんに提案した。次の提案先の紹介を松本さんに依頼し、2人で向かったのが「朝食屋COBACABA(コバカバ)」だった。店主の内堀啓介さんと3人で話をする中で、マスクが話題に上った。
店側も客が外したマスクの存在が気になっていたことを耳にした木村さんは、「これまでに作ったマスク入れを提供しますよと提案」し、9月27日から同店のカウンターに20枚ほどを入れたボックスを設置。「お食事中の仮置きに、予備のマスク入れに」と書き添えた。
内堀さんによると「週末などは、あっという間に無くなってしまう」と言い、「ほかにはない取り組みに驚き、使うだけでなく記念に持ち帰る観光客もいるのでは」と分析する。
徐々に数が出るようになると、製作が追いつかなくなった。木村さんは「無料のワークショップを各所で開いて、量産体制に入った」と笑う。すでに10回ほど開き、リピーターも増えている。
取り組みを聞き、会場を提供したいという声も届くようになった。宿泊施設「We Base 鎌倉」もその一つ。当初、不定期に開いていたワークショップを定例会し、現在は毎週木曜10時~13時、土曜14時~17時に地下1階ラウンジで開いており、誰でも参加できる。同施設のカウンターにも、マスク入れボックスを設置した。
10月21日に会員制図書室「かまくら駅前蔵書室」でのワークショップ参加者は、「役に立ちたいと思って参加したが、紙袋を別の物に作り変えるのが楽しい」「ポスターやカレンダー、パンフレットを使えば、いろいろデザインできそう」「無地の部分に絵を描いたり、シールを貼ったりしても」など感想を口にした。「横浜のある店で立派なマスク入れが用意されていて、『もったいない』と感じた。今回は、捨てられるはずの紙から作るというコンセプトに共感して参加した」と話す参加者も。
佐助カフェ(佐助)店主の島崎亮平さんも、「オリジナルのマスク入れを業者に発注しているが、捨てるものをわざわざ新規に作り続けることに抵抗があった」と話し、マスク入れボックス設置を受け入れた。
配布を始めて約1カ月、納品したマスク入れは300枚に近づいている。「作り方を覚えた参加者が、自宅でたくさん作って持って来てくださる方もいてありがたい」と感謝する木村さん。「今までは作り方を覚えて、その人自身に楽しんでもらうことがメインだった。このマスク入れ作りは、作ったものが鎌倉の人気店などを通して誰かに使ってもらえるという、その先のストーリーがある」と目を輝かせる。
「設置店も増やしたいが、増やせば生産が間に合わなくなる。しかも、このところ紙袋が不足しがち」なのが目下の悩みで、「作れる人、教える人を増やしていくのが急務」と課題を口にする。「ただ、せっかくいいことをしていても負担になってしまったら続かない」と木村さん。同協会はSDGs(持続可能な開発目標)の理念に賛同し、実用品を作ることで紙ゴミやプラゴミを削減することを目標にしている。「これからも、いつも楽しみながら作ってもらえる環境を提供したい」と抱負を話す。