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鎌倉の老舗守り育てたい モロゾフが「鎌倉カスター」引き継ぐ

新たなマークを染めたのれんの前で。モロゾフ社長の山口さん(右)と鎌倉ニュージャーマン社長の野村さん

新たなマークを染めたのれんの前で。モロゾフ社長の山口さん(右)と鎌倉ニュージャーマン社長の野村さん

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 JR鎌倉駅前の老舗洋菓子店「鎌倉ニュージャーマン」鎌倉本店(鎌倉市小町1)が11月12日、リニューアルオープンした。

「かまくらカスター」は1983(昭和58)年に誕生したロングセラー

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 1968(昭和43)年に創業した同社。創業者である高野貞夫さんが15年目に、当時ブームになっていたシュークリームと同社で人気のあったショートケーキのスポンジのおいしさを組み合わせ創作した「かまくらカスター」がヒットした。

 JR鎌倉駅東口の改札を出て正面、ロータリーに面した一等地や隣の逗子市にも出店。駅ビルやショッピングモールなどへも相次いで出店した。

 同商品は映画やアニメ、小説などにも実名で登場し、地元だけでなく全国にもファンは多いが、大手洋菓子チェーンをはじめ類似の商品が続出したこともあり、近年は売り上げが低迷。2018(平成30)年10月には旧本店の雪の下店を閉店していた。

 昨年10月末、全国に店舗を展開する洋菓子の「モロゾフ」(兵庫県神戸市)のもとに、ある企業を介して鎌倉ニュージャーマンの子会社化の提案が届く。同社の山口信二社長は「若い頃、10年ほど横浜に住んでいたこともあり、鎌倉や逗子、葉山方面にはよく出掛けた。店の存在も『かまくらカスター』の味もよく覚えていたので驚きだった」と振り返る。

 早速、調べてみると「経営だけでなく、建物などの経年劣化も激しく厳しい状況だった。ただ、良い商品や良いスタッフがいて、愛してくださる人がたくさんいる。我々のノウハウを持ってすれば再生は可能ではないか」と判断。何より「このままでは建物は売却され、長年愛されてきた商品も消滅してしまう」という危機感を抱き、「協力できればと大きなチャレンジを決断した」と言う。

 正式に営業権が譲渡された4月、同社社長に就任し店頭に立った野村謙さんは「いかに地元のお客さまに愛されているかを実感する毎日になった。逗子店ではいきなり厳しいご意見もいただいたが、ひいきにしていただいているからこその期待の大きさでもあると感じた」と話し、「働いている従業員さんも、店や商品を愛している人ばかりで、あらためて身の引き締まる思いがした」と続ける。

 あらためてブランディングを行うことになり、「鎌倉の風土を愛しスイーツで笑顔を届ける」を経営理念とした。従業員に理解を求めながら、これまでの商品の見直しや新商品開発に着手。同時に、新商品製造に向けて新たな設備を導入するなど、工場(同市上町屋)のリニューアルにも半年を掛けた。

 商品は「鎌倉をイメージできるもの」に統一。「かまくらカスター」(141円~)はこれまでと変わらないが、製造から4日だった賞味期限を最新の包装設備導入で5日に延ばした。「それでも、おいしさと日持ちを融合させることは課題だった」と山口さん。同商品のイメージのままにしっとりとしたスポンジでクリームを包んだ小ぶりの「かまくらミニ」(152円)を開発した。賞味期限は2週間で、「遠方へも安心してお土産にしてもらえる。何度も1から作り直した末にようやく完成した自信作」と胸を張る。

 アジサイの花をイメージした「かまくらボーロ」(76円)や「手毬花(てまりばな)」(195円)、鎌倉市の花であるヤマザクラの葉を象った「山桜」(130円)など新商品をラインアップ。「アップルパイ」(ラウンド1,491円、カット389円)は、これまでよりも酸味を抑えながら、もともと特徴だったシナモンを効かせた。

 ロールケーキの「かまくらロール」も味や食感にはほとんど変化を付けなかった。「せっかくおいしい商品なので、『あぁ、あの店のね』と心に刻んでいただくために、新たに作ったマークを焼き印にして押した」と山口さん。リニューアルオープンに向けて、包装紙、紙袋、箱なども一新した。「ロゴマークは、市章であり、源氏の家紋ともいわれていて、これまでのかまくらカスターの個包装にも全面に使われていたササリンドウをデザイン化した」という。

 9月から2カ月掛けて改装した店舗のコンセプトは「ジャパニーズ・モダン」。木の格子と黒い壁の入り口では、ロゴマークをあしらった真っ白で大きめののれんが客を迎える。山口さんが「さすがにモロゾフではやれなかったが、実はずっとやってみたかった。洋菓子ではあるが、鎌倉だからこそ違和感がないはず。のれんは、外の世界と内の世界を切り替える意味合もある。あえて長めにしたのは、くぐると初めて見えてくる世界を大切にしたかったから」とほほ笑む。

 店内も黒で統一したシックな印象。「歴史と伝統を受け継ぎ日本の風土がしっかり残っている和の地で、六本木ジャーマンベーカリーで修行をした先代が作った洋の世界を融合した」と山口さん。商品が並ぶガラスケースの土台は鎌倉彫が思い浮かぶような木製にした。

 山口さんは「同じ古都でも海のある鎌倉は、京都や奈良とは全く異なる唯一無二の存在。光と風、土と水、そんな風土になじんで暮らしている方、求めてやってくる方に愛してもらえるものを大切に作り展開していきたい」と話す。「そのために、モロゾフで培った経験や技術力、原材料や開発力を注いでいけたら」と今後を見据える。

 「大手に買われたと聞いて気になって足を運んだ」という鎌倉生まれで近所に住む主婦(56歳)は「以前のアットホームな店も好きだったが、凛(りん)としたたたずまいも鎌倉らしくてすてき。カスターやロールがそのままなのもうれしい。新しい商品も、帰ってから食べるのが楽しみ。手土産にもしたい」と笑顔になった。

 野村さんは「鎌倉の風土を愛しながら誠実に菓子作りに向き合い、お客さまの心を豊かにし愛される鎌倉ブランドを育んでいきたい。新たなお持たせに、普段のおやつにも」と来店を呼び掛ける。

 営業時間は10時~18時。

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