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鎌倉小町の路地奥にコーヒースタンド 偶然誕生したレモンケーキも人気

ホール業務が大好きな淑寿さんと職人気質の祐三子さん。役割分担が明確で、お互い「この人となら店ができる」と思っていたという

ホール業務が大好きな淑寿さんと職人気質の祐三子さん。役割分担が明確で、お互い「この人となら店ができる」と思っていたという

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 鎌倉小町通りから脇道に入った奥に8月、コーヒーのスタンド「a ma facon COFFEE(アマファソンコーヒー)」が開店し、コーヒーにも合うとレモンケーキの売り上げが好調だという。

「型離れ」が良くきれいな焼き色も付くと人気の型との出合いから生まれたレモンケーキ。ショーケースに並べただけでレモンが香る

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 にぎやかな小町通りを左折し脇道に。車が通れない小さな踏切手前の路地の奥にある同店。立て看板を置いている通りから、店の様子は全く見えない。扉を開けるとコーヒーと接客担当の松崎淑寿(よしひさ)さんがカウンターに立ち、パートナーの岡部祐三子(ゆみこ)さんは奥の工房で焼き菓子を作っている。

 2人が出会ったのは都内の大手コーヒーチェーンで淑寿さんが店長、祐三子さんがスタッフだった10年近く前。突然、淑寿さんが病に倒れ壮絶な闘病生活が続いた。何度も心が折れそうになったというが、「2人で店をやることがモチベーションになり、生き続けるために」骨髄移植に踏み切ったという。幸い短期間でドナーが見つかり快方に向かった。

 退院後は体に負担の少ない事務職なども経験したが、なかなか体調は戻らなかった。「子どもの頃から好きで、病気になる前もずっと働いていた飲食業がしっくりくるのでは」と2年前、コーヒー店に転職すると「比較的暇な店だったこともあって徐々に体が慣れて、1年後には忙しい関連店の応援もできるようになった」と振り返る。移植5年後の生存率25%といわれる中での社会復帰だった。

 今年に入り「第2の人生の出発となる店探し」を始めた。祐三子さんに湘南暮らしの経験があり、店をやるなら土地勘のある所でと探して鎌倉にたどり着いた。これまでに15回の引っ越し経験を持つ松崎さんも「なぜか毎回必ず近くに寺があったので、今回も全く違和感がなかった」と笑う。

 店舗面積は約23平方メートル。席数は店内4席、テラス席7席。店と工房は壁で仕切られているが、小窓からお菓子を作る祐三子さんの姿が見える。当初はマフィンを中心に焼いていたが、たまたまレモンケーキの型に出合ったことから作業の工程が大きく変わることに。

 店の備品を探しに2人で訪れた合羽橋の店に、いつも品切れ状態でネットオークションサイトなどでも高価で取引されているという千代田金属製の「レモンケーキ型」が置かれていた。勢いで購入してから、「せっかくだから作ってみようと思い、まずは有名店のレモンケーキを食べ比べてみた」と振り返る2人。「レモンケーキと名乗っているものの、どれもほんのり香りがする程度だった」ことから、レモンの味と香りを前面に出すケーキ作りが始まった。

 グラム単位での配合やオーブンの温度、焼き加減などを変えながら試作を繰り返し現在の商品に。「毎日作る度に、もっとおいしくできたかもしれないと思う繰り返し。楽しいけど辛い」と祐三子さん。淑寿さんは「僕はこれで十分過ぎるほどよくできていると思うのですが」と笑う。 

 店頭に並べるとあっという間に口コミで広がり、8月の売上は100個に満たなかったが9月は300個を超えた。「ケーキと名乗っているが、あくまで焼き菓子として考えているので価格も抑えている」と1個180円に。化粧箱入りの5個セット(1,000円)も手土産の需要が多く好評だという。

 ドリンクは、スペシャルティーコーヒーを使った「ブレント壱(マンデリンブレンド)」「ブレンド弐(イルガチェブレンド)」(400円)、アイスコーヒー(450円)、エスプレッソ(300円)、ソイラテ(470円)など。焼き菓子は、マフィン(150円~)、フルーツケーキ(160円)も。コーヒー豆は各種50グラム300円から販売している。

 淑寿さんは「地元の人で席が埋まり、そこに観光客がテークアウトのコーヒーを買いに来るというのが理想。先日は地元の年配者と若いカップルと僕で話ができてうれしかった」と話し、「自分たちがおいしいと思えるものだけを自信を持って提供している。派手さはないが、日常の中に溶け込む存在になれたら」とも。

 営業時間は10時~18時。

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