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鎌倉に再び戻った「タネさん」 鎌倉駅東口に小さなコーヒースタンド

開店準備に追われる種さん。長いキャリアだが自分の店を持つのは初めて

開店準備に追われる種さん。長いキャリアだが自分の店を持つのは初めて

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 鎌倉駅東口近くに10月2日、朝7時から22時まで営業するコーヒースタンド「TANE ROASTERY COFFEE(タネ ロースタリー コーヒー」(鎌倉市小町1)がオープンする。

普通は携帯するポイントカードだが、常連客は置いていく。壁に貼った「御成通りのころからのポイントは継続するのでご安心を」

 店主は、昨年末まで鎌倉駅西口の御成通りに「間借り」で同名のコーヒースタンドを開いていた種繁(たねしげる)さん。その後、横浜市内に移っていたが「皆さんが『タネ』の名を忘れないうちに」と鎌倉市内で物件を探していたという。「『タネ』が僕の本名だと知らない人も多いと思うけど」と笑う。

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 種さんは大手ホテルの飲食サービス部門を皮切りに、24歳のとき故郷広島の大型複合店で店長に抜てきされると、その後はプロモーションカフェの店長、オフィスビルにカフェを出店する企業では4店舗の立ち上げに携わった。

 鎌倉との出合いは40歳を迎えた頃の2016(平成28)年。由比ガ浜通りにオープンするオーガニック系レストランに、コーヒーの焙煎(ばいせん)と提供、サービス担当として迎え入れられた。

 店長ではなくあらためてバリスタやサービスマンとして働くことに新鮮さを感じたという種さん。「それまで鎌倉には1度しか来たことがなかったが、2度目の鎌倉を歩いてみると海があり山があり、田舎っぽいところが広島に似ていて親近感が湧いた」と振り返る。

 知り合いが1人もいなかったため「観光地だが、まずは暮らしている人たちを知ろうと夜の鎌倉を飲み歩いた」と言う。「出会う人たちがどんどん人を紹介してくれる。世代に関係なく温かい町で驚いた」と続ける。

 同店の敷地内で通りに面しているコーヒースタンドに立つと、気軽に立ち寄れることから固定客も付いていたが、2年後に業態変更となり、種さんも退職することに。

 閉店を聞いた客たちから「これからどこで飲んだらいいのか」「近くでやってほしい」と声を掛けられた。ある日、近くの御成通り商店街の飲食店で昼間が空いているという情報をくれたのも、その後、背中を押してくれたのも客や知り合いだった。

 4カ月後の2018(平成30)年6月、夜営業のパブ「ユイ・ジャパニーズ・パブリックハウス」に間借りして「TANE ROASTERY COFFEE」を開くと、すぐに以前からの客が戻ってきた。由比ガ浜通りでは観光客も多かったが、御成通りでは地元客が中心に。「舌の肥えた客が多く、古くからの商店街の水準は高い」ことを実感したという。

 通りを行く人たちにカウンター越しに声を掛けていた種さん。買い物や散策の途中にちょっと休んでコーヒーと気軽な会話を楽しむ人が増えてくると「全く独立願望はなかった」という種さんに変化が起きる。「もっとコーヒーを楽しんでもらえる、自分らしい空間をつくりたくなって」物件探しを始めた。

 見つかったのは、鎌倉駅東口から海側へ1分足らずの通りに面した新築ビルの1階。実は由比ガ浜で働いていた頃、広報とマーケティングを兼ねて1カ月だけ早朝の「間借り」営業をしたことがある店舗の並びだった。「知っている場所でもあり、近隣は大手チェーンばかりなので、かえって小さな専門店として差別化できる」と自信をのぞかせる。

 店舗面積は約13平方メートル。席数は3席、カウンターは立ち飲み。壁は白をベースに、鮮やかなブルーをアクセントにペイントした。「きれい過ぎると落ち着かないので、少し雑な感じにして部屋にいるような雰囲気に。自分らしい空間に出来上がった」と言う。

 メニューは、エスプレッソ(250円)、ドリップコーヒー、カフェラテ(500円)、カフェモカ(600円)、クラフトビール(600円~)、ナチュラルワイン(650円~)、ラム&コーヒー(650円)、エスプレッソマティーニ(850円)、アイリッシュコーヒー(900円)、焼き菓子、つまみ(240円~)など。「朝から夜まで同じメニュー。もちろん朝イチでビールも飲んでいただける」と笑う。

 「もともと全くコーヒーを飲まない人だった」と言う種さん。24歳で店長を任された店にエスプレッソマシンがあり、業務上必要になって学び始める。ようやく「バリスタ」という言葉が世の中に広がり始めた頃だった。以来20年、コーヒーを入れ続け、今では毎日焙煎(ばいせん)まで手掛けている。

 「提供する側も飲む側も好みはそれぞれだから難しい議論をするつもりはない」が、自身の長い経験の中で「酸味を抑え香りとコクを前面に押し出したコーヒーが日本人には合っている」という事実を学んだという。

 「朝7時から開いているので鎌倉でその日の最初のポイントとして、仕事でも観光でもいい一日のきっかけをつくって」と種さん。「コーヒーも一粒の種から生まれる。僕のコーヒーを媒介に新しい種が生まれ育ってくれたらうれしい。小さな店だが、将来は故郷の広島にも出店できたら」と抱負を話す。

 営業時間は7時~22時。

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