画集「日本のこころ~時空を超えたアミニズム」(歴史探訪社)を5月に出版した鎌倉在住の水彩画家・矢野元晴さんが現在、第2集に向けての制作に取り組んでいる。
同画集は、2019年に矢野さんが出版した初めての画集「平成鎌倉の記憶」に続く2作目。「前年にスペインやポルトガルをスケッチ旅行したことで、地元・鎌倉の素晴らしい風景に気付き、平成の鎌倉を描いた」と矢野さん。「今回は、一度、日本の原点に立ち返ろうと、伊勢から熊野、奈良、京都などを春、夏、秋に取材旅行した」と振り返る。
2作目では、旅先で出合った歴史的建造物や町並み、自然の風景などに加え、あえて有名なスポットも巡って描いた。矢野さんは「日本を代表する画家たちが描いた場所も訪れ描いてみることが改めて日本の良さを知るきっかけになった」と話し、「歩いていると静かな信仰の場が次々と現れ、古来から日本人は何を大切にしてきたことが、何気ない風景にも映し出されていることを肌で感じた」とも。
6月末に小町通りのカフェ「鎌倉邪宗門」で開いた出版記念原画展では、自ら命名した『水彩印象画法』で描いた作品30点を並べた。光と影をドラマチックに一気に描く画法という。2作目を購入した来場者が矢野さんにサインを求めるシーンも見られた。
矢野さんは1988(昭和63)年鎌倉生まれ。日大芸術学部を卒業後、建築設計事務所に就職したが、画家になりたいという夢を捨て切れず26歳で退職して水彩画家の笠井一男さんに師事し、夜勤のアルバイトをしながら本格的に水彩画に取り組んだ。2016(平成28)年、鎌倉のコミュニティースペースで開いた「2時間半で作品が完成する水彩画ワークショップ」の受講者が次第に増えたことこから、翌年には絵画教室「鎌倉水彩画塾」(鎌倉市小町1)を立ち上げ、現在、300人以上が通っている。
「水彩画というと淡く細密な絵で難しそうだと思われがちだが、教室では実演を交えながらゆっくりとステップを踏んでいくので、誰でも面白いように描くことができる。受講生とは、いつも楽しい時間を過ごしている」と矢野さん。「教室で光と影の印象画を教え、世に広げていく一方で、作品や画集をきっかけに、アートが一般の人にももっと身近な存在になってくれたらうれしい」と話す。
矢野さんの水彩画は書籍やタウン紙の表紙を飾り、鎌倉市のふるさと納税返礼品にも採用されている。フィギュアスケートの羽生結弦選手の滑走シーンを描いた作品は、羽生さんの自宅に飾られているという。カルチャースクールでも講師を務め、今年4月には母校に招かれ学生にレクチャーした。
矢野さんは、早くも同画集続編の出版に向けての制作に入っている。「熊野や奈良で出合った町並みは、現代なのに昔のようで普遍的なものに見えたことから第2集では、過去と現在をつなぐことをテーマに横浜や東京の和モダンを描きたいと考えている。DNAには刻み込まれているものの、忘れられかけている日本人の心を思い出すきっかけになるような作品に挑戦したい」と意欲を見せる。
同画集の価格は2,200円(税別、B5判、88ページ)。