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顆粒の米こうじを水に溶く「鎌倉美人のひみつ」ヒット みそ料理店が開発

「こんな風貌だからいつもギャップに驚かれる」と笑うが、みそにかける情熱は真剣そのもの

「こんな風貌だからいつもギャップに驚かれる」と笑うが、みそにかける情熱は真剣そのもの

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 鎌倉の飲食店「味噌屋 鎌倉 INOUE」(鎌倉市佐助1)のオリジナル商品で、米こうじを顆粒にしてティーバッグに入れた「鎌倉美人のひみつ」が、8月25日の発売から2カ月弱の10月20日で販売数が2000個に達した。

こうじ水が簡単に作れる「鎌倉美人のひみつ」

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 「発酵食品の素晴らしさを、より多くの人に実感してもらいたくて」と話すのは、同店を運営するイノセントワールドの井上遊太社長。ポットやカップにティーバッグを入れて水を注ぐだけで飲める手軽さが特徴だという。

 ヒントは、モデルや女優が愛飲しているとメディアで取り上げられ、専門書籍が出版されるなど話題になっている「こうじ水」だった。「ただし、量を計ったり、袋を用意したり、水を注いでから冷蔵庫で8時間寝かせたりするなど、とにかく手間が掛かる。いくら健康や美容に良いと分かっていても、面倒くさいと長続きしない」のが現実で、もっと簡素化できないかと考えていた。

 そんなときたまたま耳にしたのが、ある企業がこうじのパウダー化に成功したというニュース。「これなら簡単にできそう」と、スタッフの大場哲保さんに開発を託す。「自分の料理と同様に、人の真似をしないで、誰も作ったことのないものを」とリクエストした。

 すでにパウダー化してる製品があるという前提だったため、商品化には時間を要さないだろうと楽観していた。ところが、既成の顆粒のサイズとティーバッグに使用する不織布の網目のバランスに苦労する。「なかなか水に溶け出さなかったり、反対に水には溶け出すのに、乾燥した状態ですでにバッグから漏れ出てしまったり」するなど思うように進まず、試行錯誤を繰り返した。 

 最終的には不織布の網目のサイズではなく、顆粒にするこうじ自体を高級みそに使われている「ハゼこみこうじ」に変えることで課題をクリアした。「完成まで1年も掛かってしまったが、そのかいあって製法は実用新案を取得した」と大場さんは胸を張る。

 発売前に知人たちに飲んでもらうと、「薬を飲み続けていても下がらなかった血圧が短期間で下がった」「整腸作用があり代謝が良くなった」などの感想が届いた。井上さん自身も「水の代わりに飲んでいるだけで、ほかには何もしていないのに体重が減った」と効果を実感。大場さんも「二日酔いしなくなった」と笑う。

 発売すると購入者の多くがリピーターになり、そのほとんど女性だという。商品名「鎌倉美人のひみつ」は、思いや商品の特徴を伝えプロにネーミングしてもらったが、「ターゲットにヒットしているようだ」と分析する。

 彼女らからは「肌の調子が良い」「自分が良かったので友人にもプレゼントしたい」「体に良いものはまずいという先入観があったが味もなく、水の代わりにいくらでも飲めるのがうれしい」「水筒に入れていつも持ち歩いている」「主人の頻尿が改善された」などの感想が。

 「口臭が消えた」「1包から1リットルと書かれているが、4~5リットルは出る」「水出しした後のバッグを開いて手や顔に塗っている」など、想定していなかった声にも驚いたという。

 井上さんは福岡で生まれ、父親が営む小料理屋を小学生の頃から手伝っていた。高校卒業後、広島の大手ホテルでのフランス料理を皮切りに25歳で上京し洋食全般を経験。チェーン店を運営する企業では最年少で統括シェフに就任し、商品開発から新人採用や教育も担当した。

 「全国のワイナリーを回っていたとき、たまたま足を運んだみそ蔵での生産者さんとの出会いが、みそにはまったきっかけ。話を聞いてみて伝統文化を残したいと思ったと同時に、みそを扱うのはかっこいいと直感した」と振り返る。

 2016(平成28)年、独立の地に縁もゆかりもなかった鎌倉を選んだのも、みそに合う野菜を求めて。塩分の強いみそに負けない水分を蓄えた野菜を、半年通い詰めた鎌倉のレンバイ(鎌倉市農協連即売所)で見つけた。現在も、同所に出店している1軒の農家からほとんどの野菜を仕入れている。

 企業で働いていた際に6軒のレストラン立ち上げを成功させていた井上さん。自信を持って起業したものの、もともと地域とのつながりもなかったため客足が鈍く「2カ月後に、潰れると覚悟した」と言う。それを救ってくれたのは、食事に訪れみそ汁をお代わりしてくれた小学生の姉妹だった。

 「娘たちから話を聞いてと、お母さんやおばあちゃんが来てくれるようになり、みその話で盛り上がった」ところから、口コミで評判が伝わり、急激に客数が伸びていったという。以来、食事だけでなく、店頭に並べるみそを購入する客もありファンが増え、現在は鎌倉駅西口ロータリー前に「Trattria INOUE」、若宮大路沿いに「魚喰まつもと」を出店するまでに。

 今も15時ごろになると「ただいま」と入ってくる学校帰りの子どもたちがいるという。「顔を見れば300人位の子どもたちを名前で呼べるし、恩返しがしたくて町内の子ども会のイベントでは毎年カレーを振る舞っている」と話す井上さん。そのカレーにもみそが入っており、「みそをきっかけに、地元の人たちとの結びつき、支えられてきた」と感慨深げ。

 「みそというと、みそ汁やサバのみそ煮のように『味』を連想すると思う。でも、実は肉を柔らかくしたり、食品の腐敗の速度を緩めてくれたり、戦国時代に武士たちが持ち歩いた『みそ玉』に代表されるように栄養価の高さなどポテンシャルが高い」と井上さん。「一方で、食生活の変化により廃業するみそ蔵も後を絶たない」のが課題。「日本の伝統的な文化を絶やさず、たくさんの人にもう一度みその素晴らしさを知ってもらいたいという思いは、みそと出会ったときと全く変わっていないし、これからも変わらない」と言葉に力を込める。

 「これまでにはなかったアプローチでみそ料理を提供する一方で、新たな切り口も必要」と、パンに塗る「スパイシー味噌ソース」や砂糖を使わずこうじの甘さを生かした「麹ジャム」のほか、酒蔵やみそ蔵で働く人の手がきれいなことからヒントを得て作ったこうじを使った「ハンドクリームMISO」などを開発、販売してきた。「『鎌倉美人のひみつ』もその一つ。皆さんがみそを再認識していただけるきっかけになれば」と目を輝かせる。

 同店の営業時間は11時~14時、17時~22時。月曜・火曜夜定休。

 同商品は5グラムティーバッグ6包入1袋1,296円、同5袋5,400円、同10袋9,720円。同店とTrattria INOUE(御成町)、魚喰まつもと(雪の下1)、JR藤沢駅「湘南藤沢スーベニールズ」のほか、オンラインショップでも購入できる。

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